掛け矢

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工法

家造りの要、掛け矢の役割

掛け矢とは、日本の伝統的な木造建築において、木材を接合する際に用いられる大型の木槌のことです。槌というよりは、用途によっては丸太に近い形状のものもあります。その重さと職人の熟練した技術によって、堅牢な構造を作り上げる上で重要な役割を担っています。 掛け矢は、主に梁や桁、柱といった大きな部材を組み合わせ、しっかりと固定するために使用されます。特に、ほぞ穴にほぞを差し込むといった、精密な作業が求められる場面でその真価を発揮します。現代の建築では、電動工具や油圧機器の普及により、掛け矢を使用する機会は減ってきていますが、伝統的な建築技術を継承する上で、掛け矢は今なお重要な道具として位置づけられています。 掛け矢の素材は、樫や欅といった堅く、粘りのある木材が選ばれます。その重さは、用途によって様々ですが、数キログラムから十数キログラムにもなるものもあります。使いこなすには、かなりの力と技術が必要で、熟練した職人は、掛け矢の重さや形状、木材の種類などを見極め、適切な力加減と打ち方で木材を接合していきます。また、掛け矢を使う際には、木材を傷つけないように、当て木をするなどの工夫も凝らされます。 掛け矢を振り下ろす力強い音は、家造りの現場に活気を与え、職人の技と伝統を感じさせる象徴的な存在です。現代建築では、釘や金物で木材を接合することが一般的ですが、伝統的な木造建築では、掛け矢によって接合された木材は、釘や金物を使わない場合に比べて、よりしなやかで強靭な構造となります。これは、木材同士が互いに噛み合うことで、荷重を分散させることができるためです。掛け矢という道具と、それを使いこなす職人の技は、日本の木造建築の伝統を支える大切な要素と言えるでしょう。