稲子

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工法

日本の伝統工法:稲子

稲子とは、日本の伝統的な木造建築に見られる、竿縁天井という技法の一部です。竿縁天井とは、細い角材(竿縁)を天井板の裏側に平行に並べて固定し、その上に天井板を張る方法を指します。天井板をただ並べるだけでは板と板の間に隙間ができてしまいます。そこで、この隙間をなくし、美しく整った天井を作り上げるために、稲子という細工が用いられます。 稲子は、天井板の裏側に蟻形やメチと呼ばれる小さな突起を設けることで実現されます。蟻形とは、アリが木を齧ったような小さな階段状の形状をしており、メチとは、木材に刻まれた溝のことを指します。次の天井板には蟻形に対応する溝が掘られており、そこに蟻形を差し込む、あるいはメチ同士を組み合わせることで、天井板同士をしっかりと固定します。この様が、まるで稲穂が重なり合っているように見えることから、「稲子」と名付けられました。 稲子を用いることで、天井板の隙間を完全に無くすことができ、見た目にも美しい仕上がりとなります。また、木材は湿度や温度の変化によって伸縮しますが、稲子による固定は、この伸縮にも柔軟に対応できるため、建物の耐久性を高める効果も期待できます。現代の建築では、工期短縮やコスト削減のため、簡略化された工法や新しい素材が用いられることが多くなっています。しかし、伝統的な木造建築においては、稲子のような精巧で手間のかかる技法が、今もなお大切に受け継がれ、日本の建築文化を支えています。細部までこだわり抜かれた職人の技は、見るものを魅了し、建物の価値を高める重要な要素と言えるでしょう。