和室設計

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和室

茶室の粋、袋床の魅力

袋床とは、日本の伝統的な建築様式に見られる床の間の一種です。普通の床の間とは違い、正面の一部、あるいは左右両側に袖壁と呼ばれる低い壁を設けることで、床の間全体が袋状に囲まれたような独特の形状をしています。この閉鎖的な空間が、茶室に静謐で落ち着いた雰囲気を作り出します。まるで小さな部屋の中にさらに奥まった隠れ家のような空間が生まれることで、そこを訪れる人に特別な印象を与えます。 袋床の最大の特徴とも言える袖壁には、下地窓と呼ばれる小さな窓が設けられることがよくあります。この下地窓は、単なる採光のためだけのものではなく、光と影の繊細な移ろいを演出する役割を担っています。外の光が柔らかく差し込むことで、床の間に奥行きが生まれ、掛け軸や花入といった美術品がより一層美しく照らし出されます。また、下地窓から漏れる控えめな光は、茶室全体の明るさを抑え、静寂な空間を強調する効果も持っています。 袋床は、主に茶室で用いられる床の間の形式です。茶道では、静寂の中で自分自身と向き合い、精神的な落ち着きを得ることを大切にします。袋床は、その精神性を体現する上で重要な役割を果たしており、茶室の侘び寂びの世界観をより深く表現するための工夫と言えるでしょう。簡素ながらも洗練された美しさを持つ袋床は、日本の伝統的な美意識を象徴する存在です。
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炉の据え方:茶室の心髄

茶室の中心に据えられた炉は、ただ湯を沸かすためだけの道具ではなく、茶室の雰囲気や茶事の趣を左右する重要な要素です。炉の切り方ひとつで、空間に漂う空気、亭主と客との距離感、そして茶事全体の流れまでもが変化します。大きく分けて三つの種類があり、それぞれに特徴があります。 まず、最も一般的なのが「本勝手(ほんかって)」です。これは、畳を四角く切り抜いて炉を据える形式で、亭主と客の間に程よい距離感が生まれます。そのため、落ち着いた雰囲気の中で茶事を進めることができます。古くから多くの茶室で採用されており、伝統的な茶道の形式に則った茶事を執り行うのに適しています。 次に、「逆勝手(ぎゃくかって)」は、炉の正面を客に向ける形式です。本勝手と比べると、亭主と客の距離が近くなるため、親密な雰囲気で茶事を楽しむことができます。少人数の茶会や、親しい間柄の客をもてなす際に好まれる形式です。客とより近い距離で言葉を交わし、茶を介した心の通い合いを深めることができます。 最後に、「台目畳(だいまたたみ)」は、炉壇や点前座の壁を斜めに切り、炉縁を壁と平行に据える形式です。これは、炉と壁の間に独特の空間を生み出し、侘び寂びの境地を演出します。少し変わった炉の配置によって、視覚的な面白さが加わり、茶室に奥行きが生まれます。静寂の中に美しさを見出す、わびさびの精神を体現した茶室にしたい場合に選ばれることが多い形式です。 このように、炉の種類は茶室の広さや形状、亭主の好み、そしてどのような茶事をしたいかによって選び分けられます。炉の切り方、配置、そしてそれによって生まれる空間の雰囲気は、茶室の個性を際立たせる重要な要素と言えるでしょう。茶室を作る際には、それぞれの炉の特徴を理解し、どのような空間を演出したいかをしっかりと考えて選ぶことが大切です。
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床脇:和室の粋を彩る奥深き意匠

床脇とは、日本の伝統家屋である和室において、床の間の横に設けられた空間のことを指します。床の間が主に掛け軸や花を飾る場所であるのに対し、床脇は収納家具が置かれる場所です。床の間と床脇は、一体となって床構えを形成し、和室の格式と美意識を表す重要な要素となっています。 床脇には、違い棚、地袋、天袋といった様々な収納家具が組み合わされています。違い棚は、棚板の高さが異なる棚で、書物や道具、置物などを飾るのに用いられます。棚の段差によって空間に奥行きが生まれ、飾られた物がより美しく見える効果があります。地袋は、畳敷きの床面に接した低い位置にある引き出し式の収納で、普段使いの道具や衣類などを収納するのに便利です。天袋は、地袋の上部に位置する開き戸式の収納で、あまり使わない物や季節の飾り物などを収納するのに適しています。これらの収納家具は、単なる収納としてだけでなく、書画や工芸品などを飾り、部屋全体の雰囲気を高める役割も担っています。 床脇は、床の間の隣に位置することで、床の間の荘厳さを引き立てると同時に、実用的な収納の機能も兼ね備えています。また、床脇に飾られた道具や書画は、家主の趣味や教養を反映し、客をもてなす際の話のきっかけとなることもあります。床の間と床脇が調和することで、和室の空間はより洗練され、奥深いものとなるのです。現代の住宅では、和室自体が減少傾向にありますが、床の間と床脇は、日本の伝統的な美意識と住まいの知恵が凝縮された空間と言えるでしょう。
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洞床:塗り仕上げが生み出す洗練された空間

床の間は、日本の家屋の中でも特に格式が高い場所として、古くから大切に扱われてきました。お客さまをお迎えする場として、また、掛け軸や生花を飾り、季節感を演出する場としても使われます。床の間には様々な種類があり、それぞれに独特の趣向が込められています。 代表的な床の間として、まず書院造の床の間が挙げられます。武士が暮らしていた時代に発展した書院造は、格式を重んじる様式です。床の間には、床柱や落掛、違い棚などの装飾が施され、重厚で厳かな雰囲気を作り出します。床柱は、床の間の脇に立つ柱で、床の間の格式を高める重要な要素です。黒檀や紫檀などの銘木が使われることもあり、独特の存在感を放ちます。落掛は、床柱の上部に設けられた鴨居から吊るされた装飾で、花や掛け軸をより美しく見せる効果があります。そして違い棚は、床脇に設けられた棚で、段差によって奥行き感を出し、飾るものを引き立てます。 一方、数寄屋造の床の間は、茶室に見られるように、簡素で洗練された造りが特徴です。書院造のような華美な装飾は避け、自然の素材の持ち味を生かした、落ち着いた雰囲気が重視されます。わびさびの心を表現し、静寂な空間を生み出します。例えば、床柱には、磨き上げずに自然な風合いを残した木が使われることがあります。また、壁も土壁のまま仕上げ、自然の風合いを生かすことが多いです。 近年では、現代の住まいに合わせて、様々な工夫が凝らされた床の間も見られます。伝統的な様式を踏襲しつつも、現代的な素材やデザインを取り入れることで、新しい床の間のスタイルが生まれています。床の間の種類や特徴を知ることで、日本の伝統文化への理解がより深まるでしょう。
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踏込み床:現代的な和の空間

踏込み床とは、日本の伝統家屋に見られる床の間の種類の一つです。普通の床の間とは違い、床框という段差がなく、畳と同じ高さに板が張られています。このため、格式張った床の間よりも、気楽で親しみやすい雰囲気を作り出します。「踏込み」以外に「ふんごみ床」や「ふんごみ」といった呼び名もあり、現代の住宅にも取り入れやすい床の間として人気を集めています。 踏込み床の始まりは、茶室にあります。茶道の精神である質素さを重んじる考えから、簡素な造りの踏込み床が生まれました。従来の床の間のような床框や装飾を省いた、すっきりとした見た目が特徴です。この簡素な美しさは、現代の住まいにも自然と溶け込み、和の趣を添えてくれます。 踏込み床は、飾り棚のような役割も果たします。花瓶や掛け軸、置物などを飾ることで、季節感や個性を表現できます。また、床の間のように床框がないため、掃除もしやすく、気軽に物を置ける点も魅力です。 踏込み床を設置する際には、部屋全体のバランスを考えることが大切です。和室だけでなく、洋室に設ける場合もあります。その際は、部屋の広さや他の家具との調和を考慮し、大きさや配置を決めましょう。また、床板の色や素材も、部屋の雰囲気に合わせて選ぶと、より洗練された空間を演出できます。踏込み床は、現代の住宅に和の要素を取り入れたい方にとって、おすすめの床の間です。その簡素ながらも美しい佇まいは、日々の暮らしに安らぎと落ち着きを与えてくれるでしょう。